大藪春彦 角川文庫のカバー

N95, 人狩り, 印刷, 大藪春彦, 拳銃, 掟シリーズ, 正統派, 犯罪 , 腐食社会, 装画, 骨肉の掟 への Old Fox による投稿 (10月 16, 2009)

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どれも大好きな画案です

PICT By NOKIA N95

休息と自分

PERSE for ED-NATION, 四ツ谷, 場所シリーズ, 時間シリーズ, 空間, 表現, 視界, 透明 への Old Fox による投稿 (10月 6, 2009)

04102009113

時間は大切にしたいもの

と、意識する生き方か、そうじゃない生き方なのか。

いろいろだろう。

人狩り、骨肉の掟、、大藪春彦

バイオレンス, 人狩り, 大藪春彦, 拳銃, 掟シリーズ, 神保町, 装画, 軍事, 骨肉の掟 への Old Fox による投稿 (8月 25, 2009)

こ。これは強烈な二冊でしたね。

現代のハードボイルドとかよりも、

ハードでダーティーな、かたくなにバイオレンス。そんな作品。

展開の早さ。恐ろしいまでの描写のリアル感。

双方S47年という文化が爆発してた当時に双葉社からドロップされております。

25082009078

エンターテイメントが極力抑えられていて、ひたすらハードな情景描写が厳つい。

双方 dig up 100yen at 神保町

BECAUSE NOKIA N95

16GB, N73, N95, NOKIA, X02NK, opera mini, 正統派, 真夏日 への Old Fox による投稿 (8月 19, 2009)

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ガジェット。

日々進化は止まらない。

けど、このノキアのN95は毎日の中にすばらしくとけ込んでくれている。

飽きる事もなく、尽きない興味を与えてくれる。

形。重量。機能。

不必要じゃないスペックと手のひらになじむスクエアなマシン。

この、なんとも時代感の無いマシンと出会ってよかった。

pict by NOKIA N73

カジカの夜突き

KCマガジン, ふるさとシリーズ, カジカ, カンテラ, 渓流, 釣りキチ三平, 鮎カケ への Old Fox による投稿 (8月 10, 2009)

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真夏に『涼しげな夏の夜』を読むのは非常に心地よいです

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釣りキチ三平 KCマガジン16巻収録 カジカの夜突き

紅葉堤の大ニジマス

KCマガジン, ニジマス, 堰堤, 紅葉, 釣りキチ三平 への Old Fox による投稿 (8月 5, 2009)

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釣りキチ三平 KCマガジン21巻収録 紅葉堤の大ニジマス

この漫画の中で一番好きな話です。ページから感じられる透明感、夏の終わりの感じ。

文句なしでございます。

死の収穫 final act

hard core, バイオレンス, 企業犯罪, 信濃町, 四ツ谷, 四谷, 場所シリーズ, 悪循環, 拳銃, 新宿, 時間シリーズ, 樫原一郎, 死の収穫, 犯罪 , 生島治郎, 腐食社会, 表現, 視界, 透明, 連載, 80s への Old Fox による投稿 (7月 17, 2009)
名美と別れて一旦自分の部屋に戻った。座間がブクロの店にいるとは思え
なかったが名刺にある番号をダイヤルして出た男にヤツの所在を確かめてみ
た。案の定店長は不在と言われる。何のとっかかりも得ないままイラつく時
が過ぎる。俺は駅前で珈琲でも飲もうとアパートの階段を降りかけた。その
時、シュッという音が聞こえ足元の暗闇に気配を感じた。
「うぐっ…」
瞬間に左足首に熱い痛みが走る。ジーンズのデニム地がいとも簡単に裂か
れ真っ赤な血が踵から勢いよく吹き出していた。下の暗闇からビー玉のあの
眼が俺を静かに見据えていた。「お前、…」
いつの間にか座間は俺のねぐらを探りあて、張り、先制する用意にあった
のだ。
素早く身を立て直して手すりパイプを軸に道路へ飛び降りる。切られた左
足で着地した瞬間に悪寒で顔が歪んだ。
必死に腰の後ろに差した警棒を振り出して暗闇の座間と対峙した。ブクロ
で手痛い目にあって以来、護身のため警棒を用意していた。座間は大型のサ
バイバルナイフを手にしている。何秒かの沈黙を破って座間は隙のない動き
で俺に向けてナイフを突く。左にかわしたと思ったと同時に座間はナイフを
左手に持ちかえ素早く身を回転させた。
「バスッ」という音が右頬の辺りではじける…。反射的に警棒を座間の左膝
に向けて打ち込む。手応えがあり、座間は左膝を地面に着いて倒れかけた。
素早く手の甲に向けてもう一発スイングする。サバイバルナイフがアスファ
ルトの上を滑って回転していた。眼の前に何かが飛んでいるように見えた。
いや、実際に俺の右顔面から勢いよく血が吹き出しているのだった。頬に
手を当てると指が埋もれて上歯ぐきに直接触れた。目尻から唇までが見事に
切り裂けていた。それでも渾身の力で座間に頭突きをくらわしてやる。自分
が気を失いそうになるくらいの衝撃。座間の髪の毛を指が切れるほどに掴ん
で引き寄せた。そして無感情に死んだビー玉のような眼をまともに睨んでや
った。
殺意を込め、これ以上にない兇悪の光をビー玉に直射してやった。一瞬、
もうろうとするビー玉の奥で弱った鈍い光が動いた気がした。すかさず掴ん
でいた頭を思い切りねじり回し、やつの後首に向け容赦なく警棒をフルスイ
ングしてやった。「ガツッ」頚椎の砕ける音とともにアスファルトに鼻から
崩れた座間は仰向けに転がり血にまみれた顔で俺を放心的に見つめていた…
「お前が人を殺すのが怖くねーのなら殺されんのも怖くねーはずだな?」
護身用に得た警棒ともう一つ、俺は大昔に賭博を取材した店の店主から得
たニューナンブを用意していた。
銃口を座間の眉間に思い切り押しつけてトリガーに指を掛ける。
「…うぐぐ…」油汗の浮きでたヤツの額に力を込めてなおも銃口をめり込ま
せる。次第にビー玉に恐怖の色が出はじめ小刻みに身体が震えている。
「言えっ! 全てを言えっ! 言わないなら容赦なくブチ込む。本気でブチ
込むぞ! 咲村は何を掴んだ」
「あ、あの野郎は、あの夜、ボーイに化けてパーティーに出張ってやがった
…。岩瀬の顔をしっかりカメラで撮ってやがったんだ…。岩瀬はあの夜、ヤ
クのオーバードーズでくたばった。事が世にでりゃ本庁の上が動く…。公安
がでてくりゃ会長から下の若いもんまで全員が務めに消される。組織が丸ご
と消えちまう。そ、そうなる訳にゃいかねえ…。させる訳にゃいかねえんだ
よクソがっ…」
アスファルトに黒い影のような水溜まりが出来ている。座間は失禁してい
るのだった。
「人殺しも小便漏らすのかよ」
そう言い放って俺は拳銃のグリップを渾身の力を込めてヤツのテンプルに
ぶち込んでやった。動物のような悲鳴を上げて座間は神を失った。
俺は座間のメルセデスに座間を放り込み、そのまま新宿に向かった。暴力
に身をまかせるだけで面子や忠誠心のかけらも持たないこの男に組織会長、
九鬼蒼二の居所を吐かせるのは訳のない事だった。
縛り上げた座間に銃口をむけながら運転する。瀕死のチンピラは震えなが
ら九鬼の居場所を説明をした。東新宿の高層ホテルロータリーに車を停めて
から座間の鼻っ柱に強烈なヒジ打ちを喰らわして車を降りる。最上階で止ま
ったエレベーターを降りる。厚みで物音のしないダークブラウンのマットで
敷き詰められた廊下を進み重厚なスチールドアを静かに開いた。
俺は一瞬目を疑った…。
そこには、いつも顔を合わせる喫茶店モンドのマスターがコルトガバベント
の銃口をおれに向けていた。
ソファーに深く掛けた九鬼は落ち着いたダブルのダークグレーのスーツに
身をたしなんでいた。到底モンドでみるマスターとは思えなかった。九鬼は
話しはじめる。
「今日はいつものように熱い珈琲を淹れてやれない…。お前とは偶然に馴染
みというだけだった。あの女が店に入ってくるまではな。執拗に俺にこぎつ
けるとは思っていなかった。ただ、数日のうちに関係は変わった…。一番近
くに居て遠い私を追う事になっていた。それだけだよ」
ゆっくりとガバベントをスライドした九鬼は静かに構えて照準を俺に合わ
せ直す。
「徒党から組、組から組織、順に行けば必要なしがらみや人間が湧いてくる
ものだ。〜掌握の家〜 お前のこぎつけたあのパーティーは必要な人間たち
を満足させ、飼い慣らすに十分なものだった。地位から何からを操るように
なった人間のほうこそ欲望に貪欲なものだ」
俺は腰の得物をそっと確認しながら答えた。
「お前はしがらみというがそれは単なる悪の手段にすぎん。国の権力と繋が
り人間を飼い慣らし、死を死とも思わぬ次元で処理する。そんな商売をする
人間に生きる資格なぞあるまいよ。欲望に溺れて狂ったお前だからこそふざ
けた祭りを思いつける」
一瞬九鬼の目に座間以上の不気味な光が宿った。指に力を込めるのがわか
った。
「お前はつまらん記事を書き続けて生きておれば良かった。それだけだ」
一瞬の銃声と同時に俺は目前のテーブル脇に身を投げていた。重たいクリ
スタルの灰皿をふん掴み九鬼に投げつける。刹那に九鬼の目が空中の灰皿を
追った。俺は腰のベルトからニューナンブを抜き出し九鬼の頭部に向け発砲
した。爆音が弾ける、乾いた硝煙がうっすらと立ち上がる。
九鬼の放った弾丸は俺の左鎖骨から背中に貫通していた。興奮で痛みを感
じない。床から九鬼の方に目をやる…。
眉間にぽっかり穴を空けたまま九鬼が座っている。眼に凄まじい光を宿ら
せて。
そして信じられない事に九鬼は言葉を発した。
「こ、こじき野郎が、俺は大物なんだ、ば、馬鹿やろうが…」
見開いた眼からスッと光が消えてそのまま一点を凝視して、ソファに埋も
れる。
成り上がりものの悲しさというやつか…。
いまわの際に吐く言葉としてはあまりに悲しい台詞だった。
肩に手をあてビルを出る…。ギャラの無いこの仕事は決して記事になる事
もない。しかしながら俺は意地を通せた。それだけが唯一の俺への報酬だっ
た。
死が街に生み落とすのは悲しい無関心だけの様に思えた。
人が死に事実が消される。または消された事実が人の死で浮かび上がる。
俺は実りのない死の収穫をかみしめて暗い街を歩いていた。

ピクチャ 1

20032009074

名美と別れて一旦自分の部屋に戻った。座間がブクロの店にいるとは思え

なかったが名刺にある番号をダイヤルして出た男にヤツの所在を確かめてみ

た。案の定店長は不在と言われる。何のとっかかりも得ないままイラつく時

が過ぎる。俺は駅前で珈琲でも飲もうとアパートの階段を降りかけた。その

時、シュッという音が聞こえ足元の暗闇に気配を感じた。

「うぐっ…」

瞬間に左足首に熱い痛みが走る。ジーンズのデニム地がいとも簡単に裂か

れ真っ赤な血が踵から勢いよく吹き出していた。下の暗闇からビー玉のあの

眼が俺を静かに見据えていた。「お前、…」

いつの間にか座間は俺のねぐらを探りあて、張り、先制する用意にあった

のだ。

素早く身を立て直して手すりパイプを軸に道路へ飛び降りる。切られた左

足で着地した瞬間に悪寒で顔が歪んだ。

必死に腰の後ろに差した警棒を振り出して暗闇の座間と対峙した。ブクロ

で手痛い目にあって以来、護身のため警棒を用意していた。座間は大型のサ

バイバルナイフを手にしている。何秒かの沈黙を破って座間は隙のない動き

で俺に向けてナイフを突く。左にかわしたと思ったと同時に座間はナイフを

左手に持ちかえ素早く身を回転させた。

「バスッ」という音が右頬の辺りではじける…。反射的に警棒を座間の左膝

に向けて打ち込む。手応えがあり、座間は左膝を地面に着いて倒れかけた。

素早く手の甲に向けてもう一発スイングする。サバイバルナイフがアスファ

ルトの上を滑って回転していた。眼の前に何かが飛んでいるように見えた。

いや、実際に俺の右顔面から勢いよく血が吹き出しているのだった。頬に

手を当てると指が埋もれて上歯ぐきに直接触れた。目尻から唇までが見事に

切り裂けていた。それでも渾身の力で座間に頭突きをくらわしてやる。自分

が気を失いそうになるくらいの衝撃。座間の髪の毛を指が切れるほどに掴ん

で引き寄せた。そして無感情に死んだビー玉のような眼をまともに睨んでや

った。

殺意を込め、これ以上にない兇悪の光をビー玉に直射してやった。一瞬、

もうろうとするビー玉の奥で弱った鈍い光が動いた気がした。すかさず掴ん

でいた頭を思い切りねじり回し、やつの後首に向け容赦なく警棒をフルスイ

ングしてやった。「ガツッ」頚椎の砕ける音とともにアスファルトに鼻から

崩れた座間は仰向けに転がり血にまみれた顔で俺を放心的に見つめていた…

「お前が人を殺すのが怖くねーのなら殺されんのも怖くねーはずだな?」

護身用に得た警棒ともう一つ、俺は大昔に賭博を取材した店の店主から得

たニューナンブを用意していた。

銃口を座間の眉間に思い切り押しつけてトリガーに指を掛ける。

「…うぐぐ…」油汗の浮きでたヤツの額に力を込めてなおも銃口をめり込ま

せる。次第にビー玉に恐怖の色が出はじめ小刻みに身体が震えている。

「言えっ! 全てを言えっ! 言わないなら容赦なくブチ込む。本気でブチ

込むぞ! 咲村は何を掴んだ」

「あ、あの野郎は、あの夜、ボーイに化けてパーティーに出張ってやがった

…。岩瀬の顔をしっかりカメラで撮ってやがったんだ…。岩瀬はあの夜、ヤ

クのオーバードーズでくたばった。事が世にでりゃ本庁の上が動く…。公安

がでてくりゃ会長から下の若いもんまで全員が務めに消される。組織が丸ご

と消えちまう。そ、そうなる訳にゃいかねえ…。させる訳にゃいかねえんだ

よクソがっ…」

アスファルトに黒い影のような水溜まりが出来ている。座間は失禁してい

るのだった。

「人殺しも小便漏らすのかよ」

そう言い放って俺は拳銃のグリップを渾身の力を込めてヤツのテンプルに

ぶち込んでやった。動物のような悲鳴を上げて座間は神を失った。

俺は座間のメルセデスに座間を放り込み、そのまま新宿に向かった。暴力

に身をまかせるだけで面子や忠誠心のかけらも持たないこの男に組織会長、

九鬼蒼二の居所を吐かせるのは訳のない事だった。

07102007857

縛り上げた座間に銃口をむけながら運転する。瀕死のチンピラは震えなが

ら九鬼の居場所を説明をした。東新宿の高層ホテルロータリーに車を停めて

から座間の鼻っ柱に強烈なヒジ打ちを喰らわして車を降りる。最上階で止ま

ったエレベーターを降りる。厚みで物音のしないダークブラウンのマットで

敷き詰められた廊下を進み重厚なスチールドアを静かに開いた。

俺は一瞬目を疑った…。

そこには、いつも顔を合わせる喫茶店モンドのマスターがコルトガバベント

の銃口をおれに向けていた。

ソファーに深く掛けた九鬼は落ち着いたダブルのダークグレーのスーツに

身をたしなんでいた。到底モンドでみるマスターとは思えなかった。九鬼は

話しはじめる。

「今日はいつものように熱い珈琲を淹れてやれない…。お前とは偶然に馴染

みというだけだった。あの女が店に入ってくるまではな。執拗に俺にこぎつ

けるとは思っていなかった。ただ、数日のうちに関係は変わった…。一番近

くに居て遠い私を追う事になっていた。それだけだよ」

ゆっくりとガバベントをスライドした九鬼は静かに構えて照準を俺に合わ

せ直す。

「徒党から組、組から組織、順に行けば必要なしがらみや人間が湧いてくる

ものだ。〜掌握の家〜 お前のこぎつけたあのパーティーは必要な人間たち

を満足させ、飼い慣らすに十分なものだった。地位から何からを操るように

なった人間のほうこそ欲望に貪欲なものだ」

俺は腰の得物をそっと確認しながら答えた。

「お前はしがらみというがそれは単なる悪の手段にすぎん。国の権力と繋が

り人間を飼い慣らし、死を死とも思わぬ次元で処理する。そんな商売をする

人間に生きる資格なぞあるまいよ。欲望に溺れて狂ったお前だからこそふざ

けた祭りを思いつける」

一瞬九鬼の目に座間以上の不気味な光が宿った。指に力を込めるのがわか

った。

「お前はつまらん記事を書き続けて生きておれば良かった。それだけだ」

一瞬の銃声と同時に俺は目前のテーブル脇に身を投げていた。重たいクリ

スタルの灰皿をふん掴み九鬼に投げつける。刹那に九鬼の目が空中の灰皿を

追った。俺は腰のベルトからニューナンブを抜き出し九鬼の頭部に向け発砲

した。爆音が弾ける、乾いた硝煙がうっすらと立ち上がる。

九鬼の放った弾丸は俺の左鎖骨から背中に貫通していた。興奮で痛みを感

じない。床から九鬼の方に目をやる…。

眉間にぽっかり穴を空けたまま九鬼が座っている。眼に凄まじい光を宿ら

せて。

そして信じられない事に九鬼は言葉を発した。

「こ、こじき野郎が、俺は大物なんだ、ば、馬鹿やろうが…」

見開いた眼からスッと光が消えてそのまま一点を凝視して、ソファに埋も

れる。

成り上がりものの悲しさというやつか…。

いまわの際に吐く言葉としてはあまりに悲しい台詞だった。

肩に手をあてビルを出る…。ギャラの無いこの仕事は決して記事になる事

もない。しかしながら俺は意地を通せた。それだけが唯一の俺への報酬だっ

た。

死が街に生み落とすのは悲しい無関心だけの様に思えた。

人が死に事実が消される。または消された事実が人の死で浮かび上がる。

俺は実りのない死の収穫をかみしめて暗い街を歩いていた。

ピクチャ 12009.7発行『小説風味其の二』掲載

死の収穫 act.3

hard core, バイオレンス, 信濃町, 四ツ谷, 四谷, 場所シリーズ, 拳銃, 新宿, 樫原一郎, 死の収穫, 犯罪 , 腐食社会, 表現, 視界, 連載, 80s への Old Fox による投稿 (7月 17, 2009)
名美の頬を張って肩を掴んで立たせる。よろけた身体を半身に背負い元来
たトイレまで戻った。その時、窓枠の外からエンジン音が聞こえ外塀に反射
する黄色いヘッドライトが眩しく映った。何人かの男の声がして、ドアを閉
める重たい音が響く。シャッターを上げる軋んだ音が鳴る。
「絶対に声を出すんじゃない」かすれた声で名美にささやく。
急いで女を窓枠まで押し上げてから壁と塀の隙間で息をひそめた。頃合を
見計らい表に飛び出した俺と名美は細い路上から表通りまで全速で一気に走
り抜けた。瞬時にシャッターの前を見た時黒のメルセデスとシルバーのセル
シオがとまっていたのが分かった。やはりヤツらは死体の処分に戻ったのだ
ろう。通りの向こうには明るい階段口が輝いていた。すでに始発の地下鉄が
動きだしている。オレは名美の手を引き丸ノ内線に乗り込む。
「家どこなんだ?」「大塚…」
「このまま乗ってりゃ着く。しばらくアパートから出るな。座間から連絡が
あっても出るな、俺が連絡する時は三回コールして一度切ってかけ直す。
お前ももう危ないんだ。咲村がああなってしまった今は…。分かったな?」
名美はうなだれ、目を閉じたまま疲れきった表情でかすかに頷いた。俺は
四谷三丁目で改札を上がった。もう一度だけ咲村の部屋を調べる必要がある
ように思えた。そのまま信濃町に向かって歩きはじめる。
何を掴んで咲村は死ぬハメになったのだろう。組織の行為として、とてつ
もない秘密があったに違いない。彼はそれを知って相手を間違え、ゆすり、
死んだ。名美が何らかの鍵を知らず知らずに握っているのかも知れない。咲
村は金を作って名美を今の生活から救い出そうとしたのかも知れない。
俺は信濃町から外苑に入り青山に向かって歩き始めた。ポケットからとり
出したhi-liteは空だった。屑を片手で丸め、またポケットにねじ込
む。じっとりと汗がシャツにしみ込んでいた。歩いていても息が上がってく
る。
こんな事に巻き込まれるはずのない俺の人生に現にこんなにヤバい事態が
起こっている。危ない人間とは取材で顔を突き合わせてきたが自分の生活の
糧だったからだ。一文にもならんこんな出来事に俺は首どころか全身どっぷ
り浸かってしまっている。どこか他人事のように思えるが現実以外の何物で
もない。夜明け近い外苑の青い森が風に揺れて静かにざわめいている。自分
の鼓動がやたらと大きく聴こえてくる。青黒い森、ざわめき、そして俺の鼓
動。実にリアリティのある状況に対して妙な落ち着きが戻ってきた。
「こうなりゃ最後まで狩ってやるさ……」
青山のアパートに戻りドアを開ける。さっきのまんま鍵はかかってなかっ
た。部屋を注意深くくまなく見わたす。一度調べた暗室のネガティブや印画
紙、カメラ雑誌や道具を入れるスチールケースにいたるまでを調べる。うず
高く積まれたそれらの中に真新しい封の切ってない印画紙箱が挟まっていた
一見未開封にみえるがよく見ると黒の遮光テープでぐるりを貼り付けてある
それをひっぺ返してみると感光した数枚の印画紙の間からA4サイズほどの複
写したネガが出てきた。光に透かしてみると新聞記事をネガに焼き付けたも
ので左右上下が反転していた。読みづらいが目を通す。
「千葉県警、岩瀬嗣警視正(五一)が新宿のホテルで病死」という記事が目
にとまる。[友人らと会食、談笑中に発作を起こし死亡]という文面だが、
なにか妙な思惟が俺の頭をかすめた。ネガを雑誌に挟み丸めてポケットにし
まい込んでアパートを出た。
すっかり白んだ空と早めの通勤車の音が聞こえる。さすがに四谷のアパー
トに戻り数時間休みたい気分だった。ブクロで座間にめちゃくちゃにやられ
名美に起こされて青山に飛んでゆき御苑に行って死体を見てからまた青山に
戻っている。何時間もの緊張と疲労で俺はくたくただった。
腹も減っている。行きつけのモンドは早朝からやってるはずだ。フライド
エッグにベーコン、ビールを胃袋にぶち込んでそのまま寝てやろう。モンド
の前に来た時にそのアテは消え去った。「臨時休業」とプレートがかかって
いる。
「ちくしょう。腹減ってしようがねぇ」
そそくさとアパートの階段を上がり冷蔵庫の缶ビールを開けて一気に流し
込む。レタスのクズと少しカビの生えた食パンが冷蔵庫の奥に転がっていた
パンにマヨネーズをベタベタに塗りたくって二つ折りでレタスを挟み胃袋の
中に放り込んでやる。続けざまにウィスキーもガブ飲みしてベッドに潜り込
んだ。ぐっすり眠り込み、目が開いた時には日暮れ寸前の赤い光が部屋を寂
しく染めていた。体力は回復し気力も十二分に充実していた。俺は名美の番
号をダイヤルし三回のコールでまたかけ直した。
「もしもし…」怯えた名美の声。
「俺だ。ずっとアパートから出てないな? 座間から連絡ないか?」
「朝方とさっき電話鳴ったけど取らなかった」
「訊きたい事ができた。飯田橋の駅の裏手にローヤルって店がある、八時に
落ち合おう」
時間より前に着いたがすでに名美は奥寄りのストゥール席に座ってジンを
飲んでいた。俺も隣にかけてウィスキィを頼む。
「最初あった時、上の指示でパーティーに斡旋されたと言っていたが、いつ
頃で場所はどこだったか覚えているか?」
「確か…二週間ほど前よ。西新宿だったと思う。青山も一度あったけど…」
「どんなパーティーなんだ」
「金持ち達の腐りきった遊び。ドラッグと酒、セックスの集団パーティー。
名前なんて知らないけど偉いおっさん達を相手に何十人の女が集められるわ
世界中からより選られた女をね。男も集められている。そっちのほう専門の
客の為にね。私は酒や薬を配膳するだけだったの。ホテルの一番上の部屋で
やるんだけどそのパーティーの日だけは見張りが何人もつくの。あの新宿の
夜は私、途中で帰らされたからよく覚えてる」
咲村のアパートでみつけた新聞の日付と名美の話す状況は一致していた。
座間らの組織が取り仕切る鬼畜どもの宴。利権を持て余した連中が枯渇する
事のない欲望をギラつかせて性や薬の愚行に溺れる。その中に都に近い県警
の現役警視正がいたとしたら…。あってはならない事が浮かび上がる。重た
くどす黒い癒着が存在する事になる。咲村の掴んだ証拠に対する執拗な隠滅
行為の意味も解けてくる。座間のような人殺しを飼いならす組織の頂上には
どんな奴がいるのだろう。俺はまだ見えないそいつの頭に鉛をぶち込んでや
りたい衝動に駆られた。

名美の頬を張って肩を掴んで立たせる。よろけた身体を半身に背負い元来

たトイレまで戻った。その時、窓枠の外からエンジン音が聞こえ外塀に反射

する黄色いヘッドライトが眩しく映った。何人かの男の声がして、ドアを閉

める重たい音が響く。シャッターを上げる軋んだ音が鳴る。

「絶対に声を出すんじゃない」かすれた声で名美にささやく。

急いで女を窓枠まで押し上げてから壁と塀の隙間で息をひそめた。頃合を

見計らい表に飛び出した俺と名美は細い路上から表通りまで全速で一気に走

り抜けた。瞬時にシャッターの前を見た時黒のメルセデスとシルバーのセル

シオがとまっていたのが分かった。やはりヤツらは死体の処分に戻ったのだ

ろう。通りの向こうには明るい階段口が輝いていた。すでに始発の地下鉄が

動きだしている。オレは名美の手を引き丸ノ内線に乗り込む。

「家どこなんだ?」「大塚…」

「このまま乗ってりゃ着く。しばらくアパートから出るな。座間から連絡が

あっても出るな、俺が連絡する時は三回コールして一度切ってかけ直す。

お前ももう危ないんだ。咲村がああなってしまった今は…。分かったな?」

名美はうなだれ、目を閉じたまま疲れきった表情でかすかに頷いた。俺は

四谷三丁目で改札を上がった。もう一度だけ咲村の部屋を調べる必要がある

ように思えた。そのまま信濃町に向かって歩きはじめる。

何を掴んで咲村は死ぬハメになったのだろう。組織の行為として、とてつ

もない秘密があったに違いない。彼はそれを知って相手を間違え、ゆすり、

死んだ。名美が何らかの鍵を知らず知らずに握っているのかも知れない。咲

村は金を作って名美を今の生活から救い出そうとしたのかも知れない。

俺は信濃町から外苑に入り青山に向かって歩き始めた。ポケットからとり

出したhi-liteは空だった。屑を片手で丸め、またポケットにねじ込

む。じっとりと汗がシャツにしみ込んでいた。歩いていても息が上がってく

る。

こんな事に巻き込まれるはずのない俺の人生に現にこんなにヤバい事態が

起こっている。危ない人間とは取材で顔を突き合わせてきたが自分の生活の

糧だったからだ。一文にもならんこんな出来事に俺は首どころか全身どっぷ

り浸かってしまっている。どこか他人事のように思えるが現実以外の何物で

もない。夜明け近い外苑の青い森が風に揺れて静かにざわめいている。自分

の鼓動がやたらと大きく聴こえてくる。青黒い森、ざわめき、そして俺の鼓

動。実にリアリティのある状況に対して妙な落ち着きが戻ってきた。

「こうなりゃ最後まで狩ってやるさ……」

04072009068

青山のアパートに戻りドアを開ける。さっきのまんま鍵はかかってなかっ

た。部屋を注意深くくまなく見わたす。一度調べた暗室のネガティブや印画

紙、カメラ雑誌や道具を入れるスチールケースにいたるまでを調べる。うず

高く積まれたそれらの中に真新しい封の切ってない印画紙箱が挟まっていた

一見未開封にみえるがよく見ると黒の遮光テープでぐるりを貼り付けてある

それをひっぺ返してみると感光した数枚の印画紙の間からA4サイズほどの複

写したネガが出てきた。光に透かしてみると新聞記事をネガに焼き付けたも

ので左右上下が反転していた。読みづらいが目を通す。

「千葉県警、岩瀬嗣警視正(五一)が新宿のホテルで病死」という記事が目

にとまる。[友人らと会食、談笑中に発作を起こし死亡]という文面だが、

なにか妙な思惟が俺の頭をかすめた。ネガを雑誌に挟み丸めてポケットにし

まい込んでアパートを出た。

すっかり白んだ空と早めの通勤車の音が聞こえる。さすがに四谷のアパー

トに戻り数時間休みたい気分だった。ブクロで座間にめちゃくちゃにやられ

名美に起こされて青山に飛んでゆき御苑に行って死体を見てからまた青山に

戻っている。何時間もの緊張と疲労で俺はくたくただった。

腹も減っている。行きつけのモンドは早朝からやってるはずだ。フライド

エッグにベーコン、ビールを胃袋にぶち込んでそのまま寝てやろう。モンド

の前に来た時にそのアテは消え去った。「臨時休業」とプレートがかかって

いる。

「ちくしょう。腹減ってしようがねぇ」

そそくさとアパートの階段を上がり冷蔵庫の缶ビールを開けて一気に流し

込む。レタスのクズと少しカビの生えた食パンが冷蔵庫の奥に転がっていた

パンにマヨネーズをベタベタに塗りたくって二つ折りでレタスを挟み胃袋の

中に放り込んでやる。続けざまにウィスキーもガブ飲みしてベッドに潜り込

んだ。ぐっすり眠り込み、目が開いた時には日暮れ寸前の赤い光が部屋を寂

しく染めていた。体力は回復し気力も十二分に充実していた。俺は名美の番

号をダイヤルし三回のコールでまたかけ直した。

「もしもし…」怯えた名美の声。

「俺だ。ずっとアパートから出てないな? 座間から連絡ないか?」

「朝方とさっき電話鳴ったけど取らなかった」

「訊きたい事ができた。飯田橋の駅の裏手にローヤルって店がある、八時に

落ち合おう」

時間より前に着いたがすでに名美は奥寄りのストゥール席に座ってジンを

飲んでいた。俺も隣にかけてウィスキィを頼む。

「最初あった時、上の指示でパーティーに斡旋されたと言っていたが、いつ

頃で場所はどこだったか覚えているか?」

「確か…二週間ほど前よ。西新宿だったと思う。青山も一度あったけど…」

「どんなパーティーなんだ」

「金持ち達の腐りきった遊び。ドラッグと酒、セックスの集団パーティー。

名前なんて知らないけど偉いおっさん達を相手に何十人の女が集められるわ

世界中からより選られた女をね。男も集められている。そっちのほう専門の

客の為にね。私は酒や薬を配膳するだけだったの。ホテルの一番上の部屋で

やるんだけどそのパーティーの日だけは見張りが何人もつくの。あの新宿の

夜は私、途中で帰らされたからよく覚えてる」

咲村のアパートでみつけた新聞の日付と名美の話す状況は一致していた。

座間らの組織が取り仕切る鬼畜どもの宴。利権を持て余した連中が枯渇する

事のない欲望をギラつかせて性や薬の愚行に溺れる。その中に都に近い県警

の現役警視正がいたとしたら…。あってはならない事が浮かび上がる。重た

くどす黒い癒着が存在する事になる。咲村の掴んだ証拠に対する執拗な隠滅

行為の意味も解けてくる。座間のような人殺しを飼いならす組織の頂上には

どんな奴がいるのだろう。俺はまだ見えないそいつの頭に鉛をぶち込んでや

りたい衝動に駆られた。

ピクチャ 1 2009.7発行『小説風味其の二』掲載

死の収穫 act.2

バイオレンス, 四ツ谷, 四谷, 拳銃, 新宿, 死の収穫, 犯罪 , 珈琲専門店, 連載, 80s への Old Fox による投稿 (7月 12, 2009)
何とか四谷のアパートに帰りじめつくベッドでもんどりうってしばらくは
痛みに耐えていた。
頭の中を大きな虫がグルグルとはい回っている。軟体の奇妙な虫が血に染
まり、なぜかモンドで食うナポリタンのパスタに変幻してその血の味がする
麺を食っている夢に変わる…。遠くで鳴り響く電話の音に目覚めた時、腕時
計は午前三時を示していた。口の中で古臭い乾いた血の味がする。ひりつく
喉、そして頭部の熱はまだおさまらずに酷い腫れとなって前頭部に張りつい
ていた。受話器をとり身体の痛みに喘ぐ。
「…誰だ」
「あたしよ名美、樫原さん…大変なのよ。咲ちゃんのアパートが…。アパー
トが変なのよ、すぐ来て欲しい…。お願い」
声の様子が普通ではない。身体中が血の塊になっている気がしたがなんと
か気力を奮いおこし言われた住所をメモ書きした。流しで口をゆすぎ、頭に
蛇口から水を直接ぶっかけた。気つけにウイスキーを入れた珈琲をすする。
hi-liteを吸い込んだ瞬間じわっと身体が少しだけ楽になってくる気がした。
ようやく着替えてタクシーを拾い南青山の方に向かう。青山墓地に隣接す
る小さな住宅地に入りタクシーを降りる。名美はアパート前で到着を待って
いた。部屋に向かう道すがら名美は震えながら話した。
「めちゃくちゃだよ…。だいぶ調べた跡がある、それに血もついてる」
青ざめた顔で事の次第を説明する。
「咲ちゃん。私の働いてる店の上の事だいぶ知っていたみたい。それで上の
人間とも直接連絡してたみたいなの…」
「組織相手にゆすりか?」
「多分そんなところだと思うわ、何か大きな現場を掴んだんだと思う。それ
で逆に捕まっちゃって…」
カメラマンの咲村は恐らくどでかい証拠を得たのだろう。組織相手にゆす
りをかますだけの大きなモノを。モルタル建てのアパートの階段を上がった
二階の角が咲村の部屋だった。生活臭が鼻をつく。三畳のキッチンらしき空
間に六畳の畳部屋。隅には押し入れを改造した簡易的な暗室が設けてある。
その中を集中して荒らし回った跡があった。畳一面に散血痕がある。咲村が
負傷している事は明白だった。散らばるネガフィルムから印画紙に至る全て
がゴミ屑のようにグシャグシャにされている。俺は黒電話とスタンドの乗っ
た小さな卓の下に珈琲店のナプキン紙を見つけた。拾い上げてよく見ると走
り書きで『ナインオーガ・モータープール』とメモしてある。早速電話帳を
繰って住所を調べると新宿一丁目、御苑にほど近い場所にある事がわかった
「おい、咲村はここだ、おそらく待ち合わせの場所に指定されたんだ」
大通りに戻り名美と一緒にタクシーに乗り込み新宿一丁目とドライバーに
伝える。しわくちゃのhi-liteを抜き出し、灯をつけて吸い込む。流
れる夜景を無心に見つめた。
『樫ちゃんよ、ペン一本で人間なんて何人でも殺せるからさ、精々気をつけ
たほうがいいよ。商売より命、タマがあって初めてマンマ食えるのさ』
その昔、ブン屋時代に近しい友人が俺に忠告した事があったが今の状況が
まさにそれだった。ペン一本のおかげで命が危なくなっているのは、ほか
でもなく、この俺だった。
とてつもなく、ヤバく危ない世界に飲み込まれてゆく事に次第に気づき、
動転して、さらにまた汗がふき出してくる。
「座間とお前はいつからだ?」
唐突に名美に質問を浴びせてみた。沈黙しうつむいたまま、瞬きを続ける
名美がいる。
「…あの人とは、店に入った当時からよ。私のアガリの四割を直接あの人に
渡し続けてる。仕方なかった…口ききをして店で今の位置にしたのも座間。
咲ちゃんのためにたくさん我慢したわ。樫原さんが店に来た日も名刺取り上
げられた。上に対しての番犬みたいなもんよ…。あの人、異常なところがあ
る。感情がないっていうか。多分色んな指示を受けて下の人間を束ねるのも
あの人なんだろうけど。人を人とも思っちゃいないわ…。組織や店の若い連
中も相当恐れてる」
「お前をそんな薬の漬け物にしたのもあの座間というやつなんだろう。人間
以下の屑みたいな野郎だ。あのビー玉の眼を見ているだけで虫酸が走る」
名美は黙ってうつむいていた。タクシーは四谷四丁目の交差点を通過し富
久町の手前あたりで左折して細い車道に入った。しばらく直進したところで
運転手に運賃を手渡した。このあたりには町工場や小さな雑居ビルが多い。
その中に目立たずに埋もれるようにして目的の地下パーキングがあった。
「ナインオーガMP」と大きくペンキで塗られている。看板は比較的新しい
が地上階のドア横には「九鬼総合警備社」と書かれた古めかしい木版の看版
がかけられていた。ドア横のシャッターを上げようとしたがサビが手にこび
りつくだけで一向に上がらない。
名美と俺は地上階脇の壁と塀の狭い隙間に身体を横に滑らせて入っていっ
た。トイレの外窓がないか暗闇を見据える。ちょうど頭の高さに擦りガラス
のはまったアルミフレームが斜めに開いていた。
「入るぞ、ここからだ」
それ以上は開かないであろう角度から力まかせに上に向けてガラス窓を押
し上げる。額の汗にホコリがまとわりつく。バキッという破裂音がして見事
に窓枠ごと外れる。名美を先に押しあげ、後から俺もギリギリの狭さに身体
をねじ込ませる。臭気のキツいトイレからフロア内部に出ると一階駐車場が
がらんと広がっている。ほこりっぽい匂いが立ち込め、暗闇と不気味な雰囲
気だけが口を開けている。地下駐車場へ続くスロープ道を歩き奥へ下ってゆ
くと電球色のオレンジがフロアの角で点滅と点灯を繰り返していた。
何か物体がある…。遠目で見るそれは芸術作品のオブジェのようだった。
ライトがあたるたびに浮き上がる血の赤と黄色い肌。コンクリート壁の黒と
の対比が一種の抽象画のように見えてくる。近づいて確認する…。
果たしてそこにはチェーンでくくられた咲村が全裸で吊されていた。目を
見開いた名美はそれが咲村だと分かった瞬間に吐瀉しコンクリートに汚物が
散った。リンチの度合いが凄惨過ぎた。万力か何かで四肢の指がすべて潰さ
れており下半身の局部も万力で潰されていた。口の端からは泡が吹き出てお
り頭もパイプで割られている。さらに即頭部に拳銃の射入痕があった。致命
傷は弾丸だろう。だがショックで死亡した恐れもある。リンチが目的である
かのような惨さだった。
「さ、咲ちゃん……」
あまりの惨い状態に手を咲村に触れる事ができず、空にかざして混迷する
名美がいる。座間やその他の手合いのやり方がこれだった。ヤツらが死体を
そのままほっておく訳はない。おそらく処分のためこの地下に戻ってくるに
違いないと俺は感じた。
「おい、すぐここを出るんだ。ヤバい事になる」
名美は嗚咽し咲村の死体を眺めていた。
「おいっ!!早く出るんだよここを。ついて来い!」

AUT_0095

何とか四谷のアパートに帰りじめつくベッドでもんどりうってしばらくは

痛みに耐えていた。

頭の中を大きな虫がグルグルとはい回っている。軟体の奇妙な虫が血に染

まり、なぜかモンドで食うナポリタンのパスタに変幻してその血の味がする

麺を食っている夢に変わる…。遠くで鳴り響く電話の音に目覚めた時、腕時

計は午前三時を示していた。口の中で古臭い乾いた血の味がする。ひりつく

喉、そして頭部の熱はまだおさまらずに酷い腫れとなって前頭部に張りつい

ていた。受話器をとり身体の痛みに喘ぐ。

「…誰だ」

「あたしよ名美、樫原さん…大変なのよ。咲ちゃんのアパートが…。アパー

トが変なのよ、すぐ来て欲しい…。お願い」

声の様子が普通ではない。身体中が血の塊になっている気がしたがなんと

か気力を奮いおこし言われた住所をメモ書きした。流しで口をゆすぎ、頭に

蛇口から水を直接ぶっかけた。気つけにウイスキーを入れた珈琲をすする。

hi-liteを吸い込んだ瞬間じわっと身体が少しだけ楽になってくる気がした。

ようやく着替えてタクシーを拾い南青山の方に向かう。青山墓地に隣接す

る小さな住宅地に入りタクシーを降りる。名美はアパート前で到着を待って

いた。部屋に向かう道すがら名美は震えながら話した。

「めちゃくちゃだよ…。だいぶ調べた跡がある、それに血もついてる」

青ざめた顔で事の次第を説明する。

「咲ちゃん。私の働いてる店の上の事だいぶ知っていたみたい。それで上の

人間とも直接連絡してたみたいなの…」

「組織相手にゆすりか?」

「多分そんなところだと思うわ、何か大きな現場を掴んだんだと思う。それ

で逆に捕まっちゃって…」

カメラマンの咲村は恐らくどでかい証拠を得たのだろう。組織相手にゆす

りをかますだけの大きなモノを。モルタル建てのアパートの階段を上がった

二階の角が咲村の部屋だった。生活臭が鼻をつく。三畳のキッチンらしき空

間に六畳の畳部屋。隅には押し入れを改造した簡易的な暗室が設けてある。

その中を集中して荒らし回った跡があった。畳一面に散血痕がある。咲村が

負傷している事は明白だった。散らばるネガフィルムから印画紙に至る全て

がゴミ屑のようにグシャグシャにされている。俺は黒電話とスタンドの乗っ

AUT_0100

た小さな卓の下に珈琲店のナプキン紙を見つけた。拾い上げてよく見ると走

り書きで『ナインオーガ・モータープール』とメモしてある。早速電話帳を

繰って住所を調べると新宿一丁目、御苑にほど近い場所にある事がわかった

「おい、咲村はここだ、おそらく待ち合わせの場所に指定されたんだ」

大通りに戻り名美と一緒にタクシーに乗り込み新宿一丁目とドライバーに

伝える。しわくちゃのhi-liteを抜き出し、灯をつけて吸い込む。流

れる夜景を無心に見つめた。

『樫ちゃんよ、ペン一本で人間なんて何人でも殺せるからさ、精々気をつけ

たほうがいいよ。商売より命、タマがあって初めてマンマ食えるのさ』

その昔、ブン屋時代に近しい友人が俺に忠告した事があったが今の状況が

まさにそれだった。ペン一本のおかげで命が危なくなっているのは、ほか

でもなく、この俺だった。

とてつもなく、ヤバく危ない世界に飲み込まれてゆく事に次第に気づき、

動転して、さらにまた汗がふき出してくる。

「座間とお前はいつからだ?」

唐突に名美に質問を浴びせてみた。沈黙しうつむいたまま、瞬きを続ける

名美がいる。

「…あの人とは、店に入った当時からよ。私のアガリの四割を直接あの人に

渡し続けてる。仕方なかった…口ききをして店で今の位置にしたのも座間。

咲ちゃんのためにたくさん我慢したわ。樫原さんが店に来た日も名刺取り上

げられた。上に対しての番犬みたいなもんよ…。あの人、異常なところがあ

る。感情がないっていうか。多分色んな指示を受けて下の人間を束ねるのも

あの人なんだろうけど。人を人とも思っちゃいないわ…。組織や店の若い連

中も相当恐れてる」

「お前をそんな薬の漬け物にしたのもあの座間というやつなんだろう。人間

以下の屑みたいな野郎だ。あのビー玉の眼を見ているだけで虫酸が走る」

名美は黙ってうつむいていた。タクシーは四谷四丁目の交差点を通過し富

久町の手前あたりで左折して細い車道に入った。しばらく直進したところで

運転手に運賃を手渡した。このあたりには町工場や小さな雑居ビルが多い。

その中に目立たずに埋もれるようにして目的の地下パーキングがあった。

「ナインオーガMP」と大きくペンキで塗られている。看板は比較的新しい

が地上階のドア横には「九鬼総合警備社」と書かれた古めかしい木版の看版

がかけられていた。ドア横のシャッターを上げようとしたがサビが手にこび

りつくだけで一向に上がらない。

名美と俺は地上階脇の壁と塀の狭い隙間に身体を横に滑らせて入っていっ

た。トイレの外窓がないか暗闇を見据える。ちょうど頭の高さに擦りガラス

のはまったアルミフレームが斜めに開いていた。

「入るぞ、ここからだ」

それ以上は開かないであろう角度から力まかせに上に向けてガラス窓を押

し上げる。額の汗にホコリがまとわりつく。バキッという破裂音がして見事

に窓枠ごと外れる。名美を先に押しあげ、後から俺もギリギリの狭さに身体

をねじ込ませる。臭気のキツいトイレからフロア内部に出ると一階駐車場が

がらんと広がっている。ほこりっぽい匂いが立ち込め、暗闇と不気味な雰囲

気だけが口を開けている。地下駐車場へ続くスロープ道を歩き奥へ下ってゆ

くと電球色のオレンジがフロアの角で点滅と点灯を繰り返していた。

何か物体がある…。遠目で見るそれは芸術作品のオブジェのようだった。

ライトがあたるたびに浮き上がる血の赤と黄色い肌。コンクリート壁の黒と

の対比が一種の抽象画のように見えてくる。近づいて確認する…。

果たしてそこにはチェーンでくくられた咲村が全裸で吊されていた。目を

見開いた名美はそれが咲村だと分かった瞬間に吐瀉しコンクリートに汚物が

散った。リンチの度合いが凄惨過ぎた。万力か何かで四肢の指がすべて潰さ

れており下半身の局部も万力で潰されていた。口の端からは泡が吹き出てお

り頭もパイプで割られている。さらに即頭部に拳銃の射入痕があった。致命

傷は弾丸だろう。だがショックで死亡した恐れもある。リンチが目的である

かのような惨さだった。

「さ、咲ちゃん……」

あまりの惨い状態に手を咲村に触れる事ができず、空にかざして混迷する

名美がいる。座間やその他の手合いのやり方がこれだった。ヤツらが死体を

そのままほっておく訳はない。おそらく処分のためこの地下に戻ってくるに

違いないと俺は感じた。

「おい、すぐここを出るんだ。ヤバい事になる」

名美は嗚咽し咲村の死体を眺めていた。

「おいっ!!早く出るんだよここを。ついて来い!」

ピクチャ 1 2009.7発行『小説風味其の二』掲載

死の収穫 act.1

バイオレンス, 四ツ谷, 四谷, 拳銃, 新宿, 死の収穫, 腐食社会, 連載, 80s への Old Fox による投稿 (7月 12, 2009)
俺は樫原というフリーライターだ。四六時中つまらない出来事を追っかけ
ては記事にし、業界誌や地方紙、おりこみチラシのような物にまで拾っても
らい日々のあぶく銭と酒代を稼ぐのに忙しい男である。女房と別れてからと
いうもの部屋には生活の色が消えた。時々自身のつくりだす妄想、例えば部
屋の四隅に現れる明るく、ささやかだが平和だった日々の幻影など。それらが
自分に、生きる活動という一線を維持させていた。
寝起きで時計をみれば夕方三時近い。梅雨の鬱蒼としたじめつくベッドで
hi-liteを深く吸い込む。暗い部屋に差し込んだ光線に苛立ちを感じ
る、その酷くいほど立体的な光にたちのぼる煙草の煙が重なって紫と金色
の奇妙な美しさをもった柄が浮かび上がっていた。
空腹だが飯をつくる気になる訳もなくジーンズにスイングトップをひっか
けてアパートの階段を降りる。いきつけのスナック、モンドに飛び込み瓶ビ
ールにナポリタンをほおばる。モンドのマスターの出すナポリタンは実にう
散臭い。味はケチャップに粉チーズ、具はベーコンと玉ねぎ、ピーマン。
一通り揃ってはいるが妙に味気ない。味が薄いのではない、ただ麺をやたら
濃いケチャップと油で食っているという感覚。元来が貧乏舌で細かなことが
面倒な自分にはその雑多な味とマスターの寡黙が心地よく、店内は自分の部
屋同様の安堵に浸れる数少ない空間になっていた。
墨汁かと見まがうほどに熱く濃く淹れてくれた珈琲を胃袋におさめた頃、
窓の外を歩くイイ女が視界に飛び込んできた。どこかで記憶にひっかかるそ
の女。ほろ酔いで十二分に呆けた頭で思いだしてみる。女は果たして二週間
ほど前の夜にブクロのピンサロで俺に優しくサービスした名美という女だっ
た。年齢は二十四かそこらで、ぬけるような白い肌と負けん気の強い意志的
な瞳を持つその容姿。なんでもつまらない男に惚れぬいているあげくにその
ヒモを食わすため現在の生業につき、そこからぬけだせないでいるのも商売
先。つまりは組織の執拗な監視のせいなのだという。脅し、暴力、借金、強
固な鎖の束でがんじからめにされている状況と絶望を一見の客に本気で嘆き
反面に尽くしきるそのサービスに快感と人生の侘びしさを感じたのだった。
女は一旦走り過ぎた店先で踵を返しドアを開けるなり俺の目を見据えて息
を切らして呟いた。「ちくしょう。やっといた…」
俺の前に座るとグラスをひったくって中の水を一気に飲み干して言う。
「あんたの記事のおかげで地獄なんだよ。知らない間にバンスは跳ね上がる
し客も追いつかないくらいにとらされてる。一日で他の店までたらい回しで
最悪よ。どおしてくれんの…死んじゃうんだよ」
俺はあのブクロのピンクサロンをある風俗店情報誌にホットスポットとし
て掲載したのだった。源氏名こそ出さなかったもののN嬢という風に文中に
サービスの良さ、スタイルなどを丁寧に書いたのがこの顛末だ。あの夜も取
材とは名ばかりに半分は私欲で店に行き、帰りがけに名刺交換などやったの
だから今更うろたえてみても仕方なさそうである。
「まあ落ちつけよ、話は聞く。優しくしてくれたじゃないか」
俺は内心の焦りを隠すように珈琲をすすった。昼日中でみる彼女の顔は、
色白とはほど遠い青ざめた死の色をしていた。怒りのあまりに頬には引きつ
った笑いが醜くぶら下がっている。好きな男の為に身を潰して稼ぐ女…。
名美のヒモは咲村という男でカメラマンをめざしている。夢はあるが金も
稼げない優男なのだといっていた。名美は再び思い出したように話しはじめ
る。
「あの雑誌が出てから私の指名がやたら増えたの。それに気づいた上の人間
がノルマを増やして、挙げ句の果ては気違いじみたパーティーのホステスや
ら。前の待遇が信じらんないくらいの変わり様よ。咲ちゃんとも一週間会っ
てない。電話もつながんないしさ。記事書いたあんたに責任あるんだから何
とか店に話つけてほしいんだよ」
「うむ、確かに発端は俺だな、なんとか責任はとらしてもらうが簡単にはい
かんだろう。そんな事になっているなんて知らなかったんだよ、すまんな」
翌日の昼間、俺はブクロの西口を出て店に足を運んだ。店内では数人の男
らがせわしなく客へのサービスの監視や女の手配、接客に従事していた。そ
の中に頭株っぽい目の鋭い男を見つける。上背のあるすらりとした体格、色
白で鼻筋の通った顔つきには骨っぽい逞しさがある。昔風に言えば粋筋とい
った感じだが、窪んだ眼下にはまる感情の乏しいビー玉のような眼球。それ
には死に近い無感情が宿っていた。
「あ、ちょっと。話があるんだわな、おたくの名美さんの事で」
「少々お待ち下さい」
男は即答し、二、三分ほど奥の部屋に消えて戻ってくる。お辞儀し、座間
と入った名刺を丁寧な態度で俺に差し出した。マナーも心得ており、にこや
かな愛想笑いをしている。だが目はひとつも笑っていない。そこらの三下と
は明らかに違うという気迫を隠し切れていなかった。
「こいつは確実に危ない…」瞬間にヤバい直感が俺の血を逆流した。
「何か当店のサービスに問題でもございましたでしょうか?」
座間は丁寧に続けた。
「問題とは言わんが俺の記事のせいで名美さんが不当な扱いを受けていると
聞いたもんでな。なんとか便宜をはかってやってほしいんだ。上の人間にも
そう伝えてもらえないか」
「当店の営業方針にお客様が口を挟むのは筋違いってもんでしょう? 記事
をお仕事にされているんでしたらなおの事です。ウチのやり方、根堀葉堀取
材されても迷惑極まりないだけなんですよ…樫原さん」
座間は俺の名前も職業も知っていた。さっきも奥の部屋に知らせに入った
のだろう。おそらくは先日の内に名美から事細かく聞き出したに違いない。
座間と名美の関係も洗うべきだったのだ。に、してもこの店はやたらと神経
質に客やサービス嬢を監視している。何か黒い危ないものを孕んでいる予感
がした。
「俺は取材で来ているんじゃないんだ、ただお願いしに来ているん…」
言い終えぬその瞬間、ゴツっという鈍く重たい音と明るく鋭い閃光が目の
前にフラッシュした。奇妙な匂いが鼻をつきぬける。座間は鋭い頭突きに続
けて間髪入れずにうずくまった俺の顎を膝で蹴り上げて髪の毛をもの凄い力
で掴んでいた。
「いつまでも与汰きいてられねぇんだクソが。出直して来なくていいんだよ
わかったのか、おい?」
間近で見るビー玉のような眼球が涼しく笑っていた。酷い頭痛と汗が一気
にせり上がってくる。俺はヤツの息を見計らって素早くしゃがみ込もうとし
た。だが、瞬間に座間の右手が素早い動作で腰の後ろあたりのベルトにかか
っていた。構えからして明らかに得物を呑んでいる。ナイフ、下手すれば拳
銃だろう。店内はなんの変化もなかったかの様に暗闇とスパークするフラッ
シュライト、爆音に近い音楽とで激しく点滅していた。俺は反抗を諦めうな
だれた。
「クソがクソ垂れ流すまえに出て失せな」
座間はなおも涼しげな目でいい放った。店のある雑居ビルの裏手で胃の中
の食い物と黒い血をたらふく吐き出して何とか我に戻った。座間はさらに動
けない俺の横っ腹に渾身の蹴りを三発くらわしたのだった。

08062008112

俺は樫原というフリーライターだ。四六時中つまらない出来事を追っかけ

ては記事にし、業界誌や地方紙、おりこみチラシのような物にまで拾っても

らい日々のあぶく銭と酒代を稼ぐのに忙しい男である。女房と別れてからと

いうもの部屋には生活の色が消えた。時々自身のつくりだす妄想、例えば部

屋の四隅に現れる明るく、ささやかだが平和だった日々の幻影など。それらが

自分に、生きる活動という一線を維持させていた。

寝起きで時計をみれば夕方三時近い。梅雨の鬱蒼としたじめつくベッドで

hi-liteを深く吸い込む。暗い部屋に差し込んだ光線に苛立ちを感じ

る、その酷くいほど立体的な光にたちのぼる煙草の煙が重なって紫と金色

の奇妙な美しさをもった柄が浮かび上がっていた。

空腹だが飯をつくる気になる訳もなくジーンズにスイングトップをひっか

けてアパートの階段を降りる。いきつけのスナック、モンドに飛び込み瓶ビ

ールにナポリタンをほおばる。モンドのマスターの出すナポリタンは実にう

散臭い。味はケチャップに粉チーズ、具はベーコンと玉ねぎ、ピーマン。

一通り揃ってはいるが妙に味気ない。味が薄いのではない、ただ麺をやたら

濃いケチャップと油で食っているという感覚。元来が貧乏舌で細かなことが

面倒な自分にはその雑多な味とマスターの寡黙が心地よく、店内は自分の部

屋同様の安堵に浸れる数少ない空間になっていた。

墨汁かと見まがうほどに熱く濃く淹れてくれた珈琲を胃袋におさめた頃、

窓の外を歩くイイ女が視界に飛び込んできた。どこかで記憶にひっかかるそ

の女。ほろ酔いで十二分に呆けた頭で思いだしてみる。女は果たして二週間

ほど前の夜にブクロのピンサロで俺に優しくサービスした名美という女だっ

た。年齢は二十四かそこらで、ぬけるような白い肌と負けん気の強い意志的

な瞳を持つその容姿。なんでもつまらない男に惚れぬいているあげくにその

ヒモを食わすため現在の生業につき、そこからぬけだせないでいるのも商売

先。つまりは組織の執拗な監視のせいなのだという。脅し、暴力、借金、強

固な鎖の束でがんじからめにされている状況と絶望を一見の客に本気で嘆き

反面に尽くしきるそのサービスに快感と人生の侘びしさを感じたのだった。

女は一旦走り過ぎた店先で踵を返しドアを開けるなり俺の目を見据えて息

を切らして呟いた。「ちくしょう。やっといた…」

俺の前に座るとグラスをひったくって中の水を一気に飲み干して言う。

「あんたの記事のおかげで地獄なんだよ。知らない間にバンスは跳ね上がる

し客も追いつかないくらいにとらされてる。一日で他の店までたらい回しで

最悪よ。どおしてくれんの…死んじゃうんだよ」

俺はあのブクロのピンクサロンをある風俗店情報誌にホットスポットとし

て掲載したのだった。源氏名こそ出さなかったもののN嬢という風に文中に

サービスの良さ、スタイルなどを丁寧に書いたのがこの顛末だ。あの夜も取

材とは名ばかりに半分は私欲で店に行き、帰りがけに名刺交換などやったの

だから今更うろたえてみても仕方なさそうである。

「まあ落ちつけよ、話は聞く。優しくしてくれたじゃないか」

俺は内心の焦りを隠すように珈琲をすすった。昼日中でみる彼女の顔は、

色白とはほど遠い青ざめた死の色をしていた。怒りのあまりに頬には引きつ

った笑いが醜くぶら下がっている。好きな男の為に身を潰して稼ぐ女…。

名美のヒモは咲村という男でカメラマンをめざしている。夢はあるが金も

稼げない優男なのだといっていた。名美は再び思い出したように話しはじめ

る。

「あの雑誌が出てから私の指名がやたら増えたの。それに気づいた上の人間

がノルマを増やして、挙げ句の果ては気違いじみたパーティーのホステスや

ら。前の待遇が信じらんないくらいの変わり様よ。咲ちゃんとも一週間会っ

てない。電話もつながんないしさ。記事書いたあんたに責任あるんだから何

とか店に話つけてほしいんだよ」

「うむ、確かに発端は俺だな、なんとか責任はとらしてもらうが簡単にはい

かんだろう。そんな事になっているなんて知らなかったんだよ、すまんな」

翌日の昼間、俺はブクロの西口を出て店に足を運んだ。店内では数人の男

らがせわしなく客へのサービスの監視や女の手配、接客に従事していた。そ

の中に頭株っぽい目の鋭い男を見つける。上背のあるすらりとした体格、色

白で鼻筋の通った顔つきには骨っぽい逞しさがある。昔風に言えば粋筋とい

った感じだが、窪んだ眼下にはまる感情の乏しいビー玉のような眼球。それ

には死に近い無感情が宿っていた。

「あ、ちょっと。話があるんだわな、おたくの名美さんの事で」

「少々お待ち下さい」

男は即答し、二、三分ほど奥の部屋に消えて戻ってくる。お辞儀し、座間

と入った名刺を丁寧な態度で俺に差し出した。マナーも心得ており、にこや

かな愛想笑いをしている。だが目はひとつも笑っていない。そこらの三下と

は明らかに違うという気迫を隠し切れていなかった。

「こいつは確実に危ない…」瞬間にヤバい直感が俺の血を逆流した。

「何か当店のサービスに問題でもございましたでしょうか?」

座間は丁寧に続けた。

「問題とは言わんが俺の記事のせいで名美さんが不当な扱いを受けていると

聞いたもんでな。なんとか便宜をはかってやってほしいんだ。上の人間にも

そう伝えてもらえないか」

「当店の営業方針にお客様が口を挟むのは筋違いってもんでしょう? 記事

をお仕事にされているんでしたらなおの事です。ウチのやり方、根堀葉堀取

材されても迷惑極まりないだけなんですよ…樫原さん」

座間は俺の名前も職業も知っていた。さっきも奥の部屋に知らせに入った

のだろう。おそらくは先日の内に名美から事細かく聞き出したに違いない。

座間と名美の関係も洗うべきだったのだ。に、してもこの店はやたらと神経

質に客やサービス嬢を監視している。何か黒い危ないものを孕んでいる予感

がした。

「俺は取材で来ているんじゃないんだ、ただお願いしに来ているん…」

言い終えぬその瞬間、ゴツっという鈍く重たい音と明るく鋭い閃光が目の

前にフラッシュした。奇妙な匂いが鼻をつきぬける。座間は鋭い頭突きに続

けて間髪入れずにうずくまった俺の顎を膝で蹴り上げて髪の毛をもの凄い力

で掴んでいた。

「いつまでも与汰きいてられねぇんだクソが。出直して来なくていいんだよ

わかったのか、おい?」

間近で見るビー玉のような眼球が涼しく笑っていた。酷い頭痛と汗が一気

にせり上がってくる。俺はヤツの息を見計らって素早くしゃがみ込もうとし

た。だが、瞬間に座間の右手が素早い動作で腰の後ろあたりのベルトにかか

っていた。構えからして明らかに得物を呑んでいる。ナイフ、下手すれば拳

銃だろう。店内はなんの変化もなかったかの様に暗闇とスパークするフラッ

シュライト、爆音に近い音楽とで激しく点滅していた。俺は反抗を諦めうな

だれた。

「クソがクソ垂れ流すまえに出て失せな」

座間はなおも涼しげな目でいい放った。店のある雑居ビルの裏手で胃の中

の食い物と黒い血をたらふく吐き出して何とか我に戻った。座間はさらに動

けない俺の横っ腹に渾身の蹴りを三発くらわしたのだった。

ピクチャ 1 2009.7発行『小説風味其の二』掲載